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東京高等裁判所 平成5年(行ケ)192号 判決

石川県金沢市武蔵町3番5号

原告

パテントマニジン株式会社

代表者代表取締役

木下和文

訴訟代理人弁理士

戸川公二

松田忠秋

東京都千代田区霞が関三丁目4番3号

被告

特許庁長官 清川佑二

指定代理人

高橋詔男

花岡明子

伊藤三男

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1  当事者の求めた判決

1  原告

特許庁が、平成2年審判第22649号事件について、平成5年10月13日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

2  被告

主文と同旨

第2  当事者間に争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和60年1月17日にした先の実用新案登録出願に基づく優先権を主張して(平成5年法律第26号による改正前の実用新案法7条の2第1項)、同年11月25日、名称を「葉書の文面隠蔽用複層化アタッチメント」とする考案(以下「本願考案」という。)につき実用新案登録出願をした(実願昭60-180888号)が、平成2年10月12日に拒絶査定を受けたので、同年12月13日、これに対する不服の審判の請求をした。

特許庁は、同請求を同年審判第22649号事件として、審理したうえ、平成5年10月13日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年10月25日、原告に送達された。

2  本願考案の要旨

透明フイルムと、該透明フイルムの上面に剥離可能に貼着し、葉書の文面文字が読取り不能な不透明な表葉紙と、前記透明フイルムの下面に塗布する葉書表面への接着用の透明粘着剤とからなり、前記透明フイルムに対する前記表葉紙の剥離強度は、葉書に対する前記透明フイルムの剥離強度より小さく、前記表葉紙、透明フイルムは、前記透明粘着剤を介して葉書表面に貼着することにより葉書の文面文字を隠蔽することができ、名宛人において前記表葉紙を剥離することにより、前記透明フイルムを通して葉書の文面文字を読取り可能な大きさにすることを特徴とする葉書の文面隠蔽用複層化アタッチメント。

3  審決の理由の要点

審決は、別添審決書写し記載のとおり、本願考案は、本願出願の優先権主張の基礎となった先の実用新案登録出願前(以下「本願出願前」という。)に頒布された刊行物である特開昭50-33019号公報(以下「引用例1」といい、その考案を「引用例考案1」という。)及び特開昭56-127446号公報(以下「引用例2」といい、その考案を「引用例考案2」という。)に記載された考案に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものと認められるので、実用新案法3条2項の規定により実用新案登録を受けることができないとした。

第3  原告主張の審決取消事由の要点

審決の理由中、本願考案の要旨(審決書2頁9行~3頁1行)、引用例2の記載事項及び引用例考案2の認定(4頁3行~5頁4行)は認める。

引用例1の記載事項の認定(審決書3頁8~15行)は認めるが、これらの記載に基づく引用例考案1の認定(同3頁16行~4頁2行)は否認する。

本願考案と引用例考案1との対比のうち、両考案の目的が共通するとの点(同5頁19行~7頁1行)、両考案の構成の一致点及び相違点の認定、判断(同8頁13行~12頁1行)は争う。

審決は、引用例考案1の技術内容を誤認し(取消事由1)、本願考案と引用例考案1の目的の相違を看過し(取消事由2)、本願考案と引用例考案1の構成に関する一致点の認定を誤り(取消事由3)、本願考案と引用例考案1の相違点の判断を誤って、本願考案の進歩性の判断を誤り(取消事由4)、その結果、誤った結論に至ったものであるから、違法として取り消されるべきである。

1  取消事由1(引用例考案1の技術内容の誤認)

審決は、「引用例1には、『葉書の親展扱いの必要な文面上に貼付される感圧接着透明テープと、それとは別体で、該感圧接着透明テープの上に重ねて貼着される剥離可能な郵便切手代用のスタック紙とからなる葉書の文面隠蔽用貼着体』に係る考案・・・が記載されている」(審決書3頁16行~4頁2行)と認定しているが、以下に述べるとおり、引用例考案1は、「文面隠蔽用貼着体」に係るものとはいえないから、明らかに誤りである。’

引用例1には、親展内容部の文字を読取り不能に隠蔽する旨の記述は一切なく、切手代用スタック紙を、葉書の表面の正規の貼付位置に代えて親展内容部に貼付することにより、親展内容部を親展扱いする技術が示されているにすぎず、これ以外の技術、例えば、スタック紙自体に関する技術は何も記載されていない。

スタック紙は、そのサイズ、紙質はもとより貼付すべき位置、貼付可能な時期や貼付方法に至るまで法令の制約下にあり、証紙(スタック紙)は、計器(刻印器)を購入した会社の供給するものしか使用を認められていないから、現行制度の下で認可される限り、検甲第1、第2号証のスタック紙と同じ紙質、サイズのものでなければならないところ、上記スタック紙は、その紙質が薄いため、その上から葉書の文面文字が透けて見え、これを十分読み取ることができる。したがって、葉書の文面文字を完全に読取り不能に隠蔽することは不可能である。

引用例考案1は、葉書の文面文字を自由に隠蔽して読取り不能にすることまでは目的としていない。また、スタック紙が親展内容部の文字を読取り不能に隠蔽することができなくても、葉書を「親展扱い」にすることは可能であるから、「親展扱い」とは、名宛人以外の者に対して親展内容部の機密を守り、それを開封しないようにとの発信人の意思を尊重してほしいといった程度の意味しか持っていない。

一方、引用例1記載の感圧接着透明テープは、予め親展内容部に貼付しておくことにより、スタック紙をめくるとき、文字が取られることがないようにするもので、スタック紙とは全く別体の物品であり、スタック紙と感圧接着透明テープは、「貼着体」といえるような一体の結合概念を形成するものではない。

しかるに、審決は、引用例考案1が一体の「貼着体」を形成するものでないにもかかわらず、それを一体の「貼着体」であると誤って認定した。

また、スタック紙は、感圧接着透明テープの上のみならず、葉書の表面にもはみ出して貼着されるものであるのに、これを感圧接着透明テープの上にのみ重ねて貼着されるものと誤って認定した。

換言すれば、審決は、引用例考案1が「貼着体」であると断定することによって、これを本願考案の「アタッチメント」に無理に対応させたものといわざるをえない。

2  取消事由2(本願考案と引用例考案1の目的の相違の看過)

審決は、本願考案と引用例考案1の目的は、「表現の違いはあるものの、葉書の記載内容を宛先に至るまで隠蔽することを主たる目的とする点で共通しており、その余の本願考案の目的である『葉書そのものには何らの加工を施すことも必要とせず、葉書の表面に単に押し当てるだけでそれが複層化され』と言う一体化による簡便性・・・、『私信を含むあらゆる用途に好適に適用できるようにする』と言う汎用性・・・、『表葉紙の剥離により、葉書の表面にラミネート加工に劣らぬ美粧性を有する透明面が表出するようにする』と言う美粧性についても、・・・いずれも、引用例1記載の考案の目的として記載はないものの潜在的に有するものまたは必要により考慮されるものを目的に加えたものにすぎない。」(審決書5頁19行~6頁18行)としているが、以下に述べるとおり、誤りである。

(1)  まず、引用例1記載のスタック紙は、その紙質、サイズが特定されており、前記のとおり、かかる紙質のスタック紙は葉書の文面文字を十分に隠蔽することができないのであるから、審決の主たる目的に関する前記認定は明らかに誤りである。

(2)  次に、審決は、本願考案の目的である「葉書そのものには何らの加工を施すことも必要とせず、葉書の表面に単に押し当てるだけでそれが複層化され」という一体化による簡便性については、「ラベルやシートやアタッチメント等と称される貼着シートに共通した目的であり」(同6頁5~7行)と認定している。

しかし、葉書の表面を何らの加工を施すことなく複層化し、剥がした後にラミネート加工に劣らぬ美粧性を実現させるという本願考案の着想は、画期的な着想であり、上記目的は本願考案に固有特別のものである。

既に述べたように、引用例考案1は「ラベルやシートやアタッチメント等と称される貼着シート」に関する考案ではない。また、本願考案にいう「複層化」とは、葉書の表面を複層化し、結果的に葉書の文面文字を読取り不能に隠蔽することを意味し、アタッチメントそのものを複層化することを意味するものではないのに、審決は、これをそのように誤認し、漠然と抽象的に「一体化による簡便性」として、一般の貼着シートに共通した目的であると誤認したものである。

(3)  審決は、「私信を含むあらゆる用途に好適に適用できるようにする」という汎用性については、「引用例1記載の考案の目的として記載はないものの潜在的に有するものと言える」(同6頁9~10行)と認定しているが、この認定も、何ら具体的な根拠がない。

上記目的は、従来の複層化葉書がラミネート加工を必要とし、ラミネート加工には特別の装置が必要であって、各別の葉書1枚1枚にラミネート加工を施すことは余りにも手数が煩雑であり、コスト的にも割高となることにかんがみて、本願考案の目的として定立したものである。これに対し、引用例考案1は、各別の葉書1枚1枚に対してシリコン処理もしくは感圧接着透明テープを貼付することが必要であり、前記汎用性の条件を満たしていないものであることは明白である。

(4)  審決は、「表葉紙の剥離により、葉書の表面にラミネート加工に劣らぬ美粧性を有する透明面が表出するようにする」という美粧性については、「この種の商品において、通常考慮される事項である」(同6頁13~14行)と認定している。

しかし、「この種の商品」とは何を指すのか、その実態が不明である上、審決は、かかる判断を裏付ける何らの根拠をも示すところがない。

上記美粧性の点は、葉書の文面隠蔽用アタッチメントについて固有特別のものであり、「この種の商品において、通常考慮される事項」では決してない。また、引用例1記載の感圧接着透明テープは、スタック紙をめくる時、親展内容部の文字が「取られる」ことを防止するものであり、かつ、スタック紙に先立って葉書の親展内容部に貼付するから、前記テープからはみ出して葉書に直接貼付される部分が生じることも避け難く、スタック紙を剥がすときに葉書の表面がむしれてしまい、美粧性が著しく損なわれるから、引用例考案1が美粧性を目的とするものでないことは明らかである。

3  取消事由3(本願考案と引用例考案1の構成に関する一致点の認定の誤り)

審決は、本願考案と引用例考案1とは、「葉書の文面文字を隠蔽する部分に接着するための透明粘着剤が塗布されている透明フイルムと、該透明フイルムの上面に剥離可能に貼着し、葉書の文面文字が読取り不能な表葉紙とからなり、前記透明フイルムに対する前記表葉紙の剥離強度は、葉書に対する前記透明フイルムの剥離強度より小さく、前記表葉紙、透明フイルムは、前記透明粘着剤を介して葉書表面に貼着することにより葉書の文面文字を隠蔽することができ、名宛人において前記表葉紙を剥離することにより、前記透明フイルムを通して葉書の文面文字を読取り可能な大きさを有する葉書の文面文字を隠蔽するための貼着体」である点で一致(審決書8頁14行~9頁6行)すると認定している。

しかし、既に述べたとおり、引用例1のスタック紙は、郵便切手代用のスタック紙であり、「葉書で親展扱いを可能にする」ものであるが、葉書の文面文字を読取り不能に隠蔽しうるものではない。また、引用例考案1は、郵便法令下で認可されているものは、親展内容部は「葉書の表面」になければならず、裏面にあってはならないところ、引用例1記載の感圧接着透明テープは、葉書の表面の親展内容部に貼着するものであっても、「葉書の文面文字を隠蔽する部分に接着するためのもの」ではない。

本願考案の表葉紙と透明フイルムは、両者が同一の大きさであり、しかも、読取り不能に隠蔽すべき葉書の文面文字に合わせ、それにより大きくなるように、任意の大きさに設定することができる。ところが、引用例1記載のスタック紙は、葉書の文面文字に合わせて任意の大きさに設定することが不可能である上、葉書の文面文字が読取り不能なものでもなく、さらに、感圧接着透明テープより大きい方が好ましいとされるものであるから、前記スタック紙は本願考案の表葉紙に対応するものではない。

すなわち、本願考案が葉書の文面隠蔽用アタッチメントであるのに対し、引用例考案1は「葉書の文面文字を隠蔽するための貼着体」とはいえない。

4  取消事由4(本願考案と引用例考案1の相違点の判断の誤り及び本願考案の進歩性の判断の誤り)

審決は、「引用例2記載の考案は、引用例1記載の考案と技術的に関連が深く、引用例1考案に引用例2考案を組み込むことに格別の困難があったと認められず、組み込んだための効果も予測される範囲内のものであるから、この点に技術上格別の困難があるとは認められない。」(同11頁9~14行)と判断しているが、誤りである。

(1)  引用例考案2は、その目的(技術的課題)として、基体の表面の印刷文字を読取り不能に隠蔽することや、それを親展扱いにすることは全く含んでいない。したがって、引用例2には、本願考案や引用例考案1の目的と共通する技術的課題は全く記載されていない。

引用例考案2においては、積層構成物を基体に貼りつける際、基体の表面の貼りつけ位置に印刷文字があるか否かは全く問題でなく、また、面材料が基体の印刷文字を読取り不能に隠蔽しうるか否かも問題とはならない。すなわち、目的(技術的課題)に全く共通性がなく、使用形態が正反対の引用例1及び引用例2を組み合わせる必然的な契機がない。

引用例考案2の使用形態は、本願考案のそれと全く正反対である。すなわち、本願考案のアタッチメントは、葉書の表面に貼りつけられ、葉書の表面から表葉紙が剥ぎ取られるまでの間において、葉書の文面文字を隠蔽する点に意義があるのに対し、引用例考案2は、「例えば面材料を業務カード、会員カード又はクレジツトカード用に予め印刷しこれまた予め印刷した基体に貼付けて顧客に送ることができ、顧客はカードを積層物の残りの部分から剥ぎ取ることができる。」(甲第5号証3頁右上欄2~6行)と記載されているように、面材料をクレジットカード等用に印刷した積層構成物を基体に貼り付けてこれを顧客に送り届けること、また、基体からはぎ取った後の面材料の使用に意義があるというべきである。そして、このときの面材料は、基体の印刷部分を「親展扱い」にしたり、隠蔽したりするためのものではないし、面材料の大きさは、クレジットカード等として使用し易い大きさにするものであり、基体の印刷文面の大きさに適合させるものでないことは明らかである。

この関係は、引用例考案1と引用例考案2とにもそのまま適合する。すなわち、引用例考案1のスタック紙も、名宛人がこれを剥がして親展内容部を開封した後は、そのまま廃棄してしまえばよく、剥がした後のスタック紙をさらに使用することは全く予定されていないからである。

なお、引用例2には、「基体も積層構成物で被覆される部分を含めて予じめ印刷可能であり・・・、面材料を取除くと見えるようになり読取り可能である」との記載(同号証4頁右下欄5~9行)があるが、かかる記載も、透明な重合物や接着剤を使用すると、面材料を剥がすことにより、面材料によって被覆されていた基体の表面が見えるようになり、そこに文字が印刷されておれば、それが読取り可能になるという極めて当然な自然現象を述べたにすぎず、本願考案や、引用例考案1の目的(技術的課題)を示唆するものではありえない。

したがって、引用例考案2と引用例考案1とが技術的に関連が深いといえず、両者を組み合わせて本願考案の構成にすることに何ら必然性がなく、そのような組み合わせを着想すること自体、当業者にとって困難であるといわざるをえない。

(2)  審決は、進歩性の判断にあたり、本願考案固有の顕著な効果をすべて無視したものであり、誤りであり。

本願考案の顕著な効果は、〈1〉葉書そのものに何らの加工を施すことも必要とせず、葉書の表面に押し当てるだけでそれを複層化し、葉書の文面文字を有効に隠蔽することができること、〈2〉葉書の枚数にかかわらず、私信を含むあらゆる用途に手軽に好適に適用することができること、〈3〉表葉紙の剥離により葉書の表面が損傷してしまうおそれが全くなく、透明フイルムを通して葉書の文面文字が鮮明に表出されること、〈4〉葉書の表面に透明フイルムが残るため、葉書の文面文字を改竄することが難しく、仕上がりも美麗であること、〈5〉格別な装置を要せずして誰でも極めて簡単に葉書の複層化をすることができること等である。

すなわち、本願考案の最大の特徴は、いわばワンタッチで葉書を複層化し、葉書の文面文字を隠蔽することができ、このようにして文面文字を隠蔽された葉書の表面は、表葉紙を剥がすに際し、損傷されるおそれが全くなく、ラミネート加工に劣らぬ美粧性を実現することができる点にある。

これに対し、引用例1及び引用例2には、本願考案の、予め剥離可能に貼着した表葉紙、透明フイルムの両者を同一の大きさにし、しかも、それらを葉書の文面文字に適合するように任意の大きさに設定するという技術思想も、また、葉書の文面文字を読取り不能に隠蔽するという基本的な作用効果も、全く記載されていない。

上記の本願考案の顕著な効果は、引用例考案1に引用例考案2をいかに組み込んだにしても実現しうるものではなく、当業者にとって予測しうるものではない。

したがって、審決の判断は、引用例考案1及び引用例考案2の内容を誤認したうえ、本願考案の優れた効果をすべて看過したものである。

(3)  以上のとおり、引用例考案1は、一体の「貼着体」ではなく、いわんや「アタッチメント」でもなく、また、引用例考案2は、基体の印刷文字を隠蔽するためのものでもなく、葉書の文面文字を隠蔽するためのものでもないから、審決のように、「引用例1考案に引用例2考案を組み込むことに格別の困難がない」として本願考案の進歩性を否定するためには、引用例考案1及び2が「技術的に関連が深い」と指摘しただけでは、論理的必然性も合理的な根拠を示されたことにはならない。

審決は、本願考案と引用例考案1及び引用例考案2との間に存する目的、構成及び効果上のギャップを埋めるべき「埋め草」となる技術事項も全く記載されていないのに、本願考案の進歩性がないと誤って判断したものである。

第4  被告の反論の要点

審決の認定判断は正当であり、原告主張の審決取消事由はいずれも理由がない。

1  取消事由1について

引用例考案1にいう「親展扱い」とは、葉書の一部すなわち親展内容部に記載された事項をスタック紙によって隠蔽し、葉書を受け取った名宛人が、スタック紙を剥ぎ取ることによってはじめてその内容を見うる状態になるものと解して何ら誤りはない。

引用例1(甲第4号証)につき審決が引用した箇所(同号証2頁右上欄9行~左下欄10行、右下欄13~15行)及びその余の記載(同1頁左下欄11~19行、2頁右上欄6~8行、2頁左下欄15~17行、3頁左上欄13~14行)並びに図面第1図に照らして考察すると、引用例考案1における「親展扱いにする」及び「親展内容部」の意味は、それぞれ「葉書の文面文字を隠蔽する」こと及び「葉書の文面文字を隠蔽する部分」であることは明らかである。

スタック紙が葉書を親展扱いにするためにのみ使用されるものではなく、本来の郵便料金納付の機能を併有し、また、法令上の制約があるとしても、このことは、引用例考案1が葉書の文面文字を親展扱いすることに何ら影響を与えるものではないし、引用例考案1に、葉書の文面文字を親展扱いにする技術思想があることに変わりはない。

また、引用例考案1にいう「スタック紙」は、葉書の文面文字を隠蔽できるものである以上、その機能を発揮するための物性を具備するものであると解するのが技術常識であり、この「スタック紙」は、その紙質や大きさについては特に限定されておらず、原告主張のような検甲第1、第2号証のスタック紙のような特定企業製のものに限られないし、貼り付ける位置もある程度自由に選択できるものである。

さらに、引用例1には、親展内容部の文面上に「感圧接着透明テープを貼付してお」く旨の記載(甲第4号証2頁右下欄14行)及び「タツク紙5の剥離紙52を取り去り前記親展扱いの必要な文字4に覆つて貼付すればよい」旨の記載(同2頁左下欄4~6行)があるから、「感圧接着透明テープ」と「スタック紙」を「貼着体」といえることは明らかであり、これらは葉書の同じ位置に重ねて貼付けられているのであるから、その状態から一体結合概念を形成しているものであって、これらスタック紙と感圧接着透明テープからなるものを「貼着体」であるとした審決に何ら誤りはない。

2  取消事由2について

(1)  引用例考案1にいう「親展扱い」が葉書の文面文字を隠蔽することを意味することは、上記のとおり疑う余地のないことであり、引用例考案1が「葉書の記載内容を宛先に至るまで隠蔽すること」を目的としていることは、「本発明は・・・葉書で親展扱いを可能にし・・・目的としたものである。・・・内容を宛名人以外に見えないようにしたものである。」(甲第4号証2頁右上欄2~8行)と記載されていることからも明らかである。

(2)  ラベル、レッテル及び荷札などの貼着シートにおいて、シート本体と接着剤が一体化されていることによる貼着の際の簡便性や、貼着シートが複数あるときにはこれらを予め複層化しておくと便利であることは、貼る際の煩わしさから考えて当然であり、本願出願前周知の複層化されているラベル、レッテル及び荷札などの貼着シートは、このような要求に応えて考案されたものである。

すなわち、何枚ものシートを貼り合わせておくとともに、最下層の下面に接着剤を塗布しておくことによって対象物に早くきれいに貼るという目的は、ラベル、レッテル及び荷札などの貼着シートにおいては、本願出願前周知の共通した目的なのである。

(3)  本願考案のアタッチメントが「葉書の文面隠蔽用」であることは、本願明細書の実用新案登録請求の範囲の記載より明らかであり、本願考案の目的にいう「私信を含むあらゆる用途」とは、私信を含むあらゆる種類の葉書に適用できるという意味に解される。

一方、引用例考案1は、対象とする葉書の種類に何ら限定はなく、その目的、構成及び効果の記載から、それが私信用の葉書以外の商用、公用等の種々の葉書にも適用できることは明らかである。

(4)  まず、審決にいう「この種の商品」が葉書及びそれに類する商品すなわち誕生日カードやクリスマスカードなどのカード類、案内状などを指すことは、審決全体の記載から明らかである。

次に、引用例考案1の葉書面にも、スタック紙を剥がした後には透明フィルムが残るのであり、本願考案の葉書面に残る透明フィルムも、その大きさには種々のものが含まれるのであるから、葉書面に透明フィルムが残る点では両者に構成上の差異はなく、美粧性については格別の差はないはずであり、それを目的として記載したか否かの差にすぎない。

しかも、葉書、誕生日カードやクリスマスカードなどのカード類、案内状などこの種の商品に美粧性が求められることは日常の経験から明らかであり、引用例考案1に係る葉書においても美粧性がその目的として潜在的に存在しているといえるのである。

3  取消事由3について

引用例考案1における「親展内容部」が「葉書の文面文字を隠蔽する部分であること」は、前述のとおりであり、そのスタック紙は、葉書の文面文字が読取り不能であることは明らかである。

また、引用例考案1におけるスタック紙は、その大きさについて格別の限定はなく、実施例に記載されたものに限定されるものではない。そして、本願考案における隠蔽用アタッチメントも種々の大きさのものが含まれるのであるから、原告が相違点として主張する点も、実質的な相違点ではない。

4  取消事由4について

引用例考案2の積層構造物の構成は、本願考案の構成と全く同じであり、それを基体に貼り付けてレッテル、荷札、ステッカー、業務カード、会員カード、クレジットカードあるいはそれらの類似物として使用されることが例示されている。そして、その具体的使用形態については、基体に積層構造物を貼り付けて相手に送付し、それを受け取った相手は、積層構造物の接着剤層16及び重合物層14を残して、面材料10を剥離するものであり、当該積層構造物が貼られている部分が見えなくなっており、面材料10が剥ぎ取られた後は基体のその部分が見えるようになり読取り可能になるとの実施例も含むものであるから、引用例考案1、引用例考案2及び本願考案は、互いに使用形態上の共通点があり、産業上の利用分野が共通している。

また、引用例考案2の目的について、葉書の文面文字を隠蔽するとの明記はないものの、積層構造物が貼られている部分が見えなくなっており、面材料10が剥ぎ取られた後はその基体上のその部分が見えるようになり読取り可能である旨の記載(甲第5号証4頁右下欄5~9行)から、積層構造物が貼られている部分を見えなくし、面材料10が剥ぎ取られた後はその基体上のその部分が見えるようにして読取り可能とする目的も示唆されている。

これらのことから、引用例考案2の積層構造物が、引用例考案1におけるスタック紙と感圧接着透明テープとを重ね合わせたものに極めて類似した構造、機能及び使用形態を有するものであるから、引用例考案1と引用例考案2とは技術的関連が深いものであり、両考案を組み合わせるのに格別の困難はなく、また、種々の大きさの葉書の文面文字に対して、実用的に対処することができるものである。

さらに、原告主張の本願考案の効果も、引用例考案1に引用例考案2を組み込むことにより容易に予測されるものである。

よって、原告の主張はいずれも理由がない。

第5  証拠関係

本件記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。各書証の成立及び検甲各号証が原告主張のとおりのものであることは、いずれも当事者間に争いがない。

第6  当裁判所の判断

1  取消事由1(引用例考案1の技術内容の誤認)について引用例1(甲第4号証)には、以下の記載がある。

「近時、銀行において振込をした時などに、振込相手先に、振込まれた事実を通知するその場合は通常、封書を使用する。ハガキを使用しても良いのであるが、振込金額、振込者名が見えるので好ましくない。・・・送達の本人に渡るまでに金額欄などが見える恐れがある。即ち、ハガキでは親展扱いが不可能なのである。」(同1頁左下欄下から9~1行)

「本発明は、・・・法に順じ且つ、葉書で親展扱いを可能にし、かつコンピユーター処理が可能にすることを目的としたものである。その概容は、親展内容部分に郵便切手(送料)を貼つて、内容を宛名人以外に見えないようにしたものである。」(同2頁右上欄2~8行)

「法を犯すことなく、従来不可能だつた葉書の表面に記した親展内容文字4の機密を守ることが可能となつた。」(同2頁左下欄15~17行)

引用例1のこれらの記載及び図面第1図によれば、引用例考案1は、郵便規則を遵守し併せて葉書の表側の親展内容部の機密保持の問題を解探すべく、葉書に貼着する切手又は切手代用紙(スタック紙)を利用して、それを親展内容部上に貼着することによって、機密を保持するものであると解することができるから、引用例考案1における「親展扱いにする」こと及び「親展内容部」の意味は、それぞれ「葉書の文面文字を隠蔽する」こと及び「葉書の文面文字を隠蔽する部分」であることは明らかである。

このように、引用例考案1は、切手又は切手代用紙(スタック紙)を利用して親展内容部を隠蔽するものであるから、この考案の趣旨からみて、そのスタック紙は、切手を貼着した場合と同様に、葉書の文字を隠蔽できる機能を備えたものを予定しているとみるべきである。したがって、引用例考案1の実施に当たって、スタック紙として検甲第1、2号証により認められるスタック紙を用いた場合、仮に親展内容部が透けて見え完全に隠蔽することができないとしても、それは考案の実施上の問題にはなりえても、考案の内容自体の問題とはなりえないというべきである。

また、原告は、「貼着体」とは一体の結合概念を形成するものであることを前提にし、感圧接着透明テープとは別体のスタック紙がテープの上のみに重ねて貼着されるものではないことから、審決の引用例考案1の認定が誤りであると主張する。

しかし、審決は、「引用例1記載の考案では、剥離可能な接着剤を有するスタック紙(表葉紙に相当)と葉書表面への接着用の透明粘着剤を下面に有する透明テープ(透明フイルムに相当)が一体となっておらずそれぞれ別体で・・・、積層化アタッチメントではない点」(審決書9頁11行~10頁1行)を本願考案との相違点として認定し、一体化した積層構成物については、引用例2を引用して本願考案と比較しているのである。また、審決の用いている「貼着体」の語は、原告主張のように一体の結合概念を形成するものを意味すると一義的に解することはできず、普通には、「貼り着けるもの」程度の意に解される語であり、審決もこの意味において「貼着体」の語を用いていることは、審決全体の記載に照らし明らかである。

そうすると、感圧接着透明テープとスタック紙はいずれも葉書に貼り着けるものであるという意味でそれぞれ個々に貼着体と呼ぶことができ、また、両者を重ねて貼る場合に全体を総称して貼着体と呼んだとしても、誤りということはできない。

したがって、審決の認定に誤りはなく、取消事由1は理由がない。

2  取消事由2(本願考案と引用例考案1の目的の相違の看過)について

(1)  引用例考案1にいう「親展扱い」が葉書の文面文字を隠蔽することを意味することは、上記のとおりであり、引用例考案1が「葉書の記載内容を宛先に至るまで隠蔽すること」を目的としていることは、引用例1に、「本発明は・・・葉書で親展扱いを可能にし・・・目的としたものである。・・・内容を宛名人以外に見えないようにしたものである。」(甲第4号証2頁右上欄2~8行)と記載されていることからも明らかである。

(2)  本願考案の「葉書そのものには何ら加工を施すことも必要とせず」という点は、本願明細書に記載の従来のラミネート加工や、引用例1記載の予め葉書に「シリコン処理」や「感圧接着透明テープの貼付」を行うこと(甲第4号証2頁右下欄13~15行)も含め、何らの加工も必要ないとの意味に解されるから、この点は引用例考案1の目的とは相違する点があるとはいえる。

しかし、被貼着側の基体には何ら加工を施すことなく、単にその表面に押し当てるだけで複層化される構成は、引用例2のほか、特公昭55-15035号公報(乙第4号証)及び実公昭57-60036号公報(乙第5号証)にそれぞれ記載されたシート類において等しく認められるところであり、そのこと自体周知ということができるから、審決が「貼着シートに共通した目的」と認定した点に誤りはない。

(3)  本願考案における「あらゆる用途に好適に」という要件は、本願明細書全体をみても、原告主張のように、各別の葉書1枚1枚にラミネート加工等の煩雑な加工を要しないことを要するものと限定して解釈すべき理由はない。

引用例考案1においても、スタック紙の貼着対象となる葉書(私製、官製)について特に限定は認められず、また、その構成からみて本願考案の葉書の文面文字隠蔽用複層化アタッチメントに比して、対象を特に限定して解すべき理由も認められないから、この点で両者に差異があるということはできない。

(4)  本願考案にいう「ラミネート加工に劣らぬ美粧性を有する透明面が表出する」とは、例えば、本願明細書(甲第3号証の1、2)における本願考案の効果についての記載のうち、「葉書の表面に透明フイルムが残るために、葉書の文面文字を改竄することが難しく、仕上がりも美麗である」との記載(同号証の1、7欄15~17行)によれば、表葉紙を葉書から剥離したときに、透明フィルムが葉書の表面に残ることをいうものと解される。

一方、引用例1(甲第4号証)には、「親展内容部4にあらかじめ・・・感圧接着透明テープを貼付しておれば、めくる時、文字が取られるということはない」との記載(同号証2頁右下欄13~15行)があり、この記載からみて、引用例考案1においても、スタック紙を剥離したとき葉書の親展内容部表面には上記テープが残存することは明らかであるから、この点において本願考案と引用例考案1とは変わるところがない。

したがって、審決の認定に誤りはなく、取消事由2は理由がない。

3  取消事由3(本願考案と引用例考案1の構成に関する一致点の認定の誤り)について

取消事由1について判示したとおり、引用例考案1における「親展扱いにする」こと及び「親展内容部」の意味は、それぞれ「葉書の文面文字を隠蔽する」こと及び「葉書の文面文字を隠蔽する部分」であること、スタック紙と感圧接着透明テープとを貼着体と呼ぶことに誤りはないから、引用例1記載のスタック紙は、切手を貼着した場合と同様、葉書の親展内容部を覆ってその機密を保ち、剥離することにより親展内容部が見えるようにした点では、本願考案の表葉紙と変わるところがなく、また、感圧接着透明テープは本願考案の透明フィルムに相当するものといえるから、原告が指摘する点は、いずれも本願考案と引用例考案1との一致点と認められる。

なお、引用例考案1は、前示のとおり、郵便規則により葉書の裏面に他のものを添付することは許されても、その表面に対しては許されないという法令上の制約を前提として、規則を遵守し併せて葉書の表側の親展内容部の機密保持の問題を解決すべく、葉書に貼着する切手又は切手代用紙(スタック紙)を用いて、それを親展内容部上に貼着することによって機密保持するものであることは明らかであるが、そのような制約があるとしても、引用例考案1において他の貼着物に代えてスタック紙を選択したのは、あくまで葉書の表側に親展内容部を設ける場合のみの付加的制約があるからであって、引用例考案1に「親展扱いにする」こと、すなわち、「葉書の文面文字を隠蔽する」機能が示されている以上、本願考案と相違するものとはいえない。

また、切手代用スタック紙でないシート状貼着物であれば、そのサイズ、貼着位置等については切手又は切手代用紙のような規制を受けないことは自明であり(特開昭54-56526号公報・乙第1号証1頁右欄18~20行、実願昭52-46100号の願書に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム・乙第2号証明細書2頁6~8行)、葉書の文面文字に合わせて任意の大きさにすることは可能であるし、その表面に文字等を記載することも任意であるということができる(引用例2、前掲特公昭55-15035号公報・乙第4号証及び実公昭57-60036号公報・乙第5号証)。

したがって、審決の認定に誤りはなく、取消事由3も理由がない。

4  取消事由4(本願考案と引用例考案1の相違点の判断の誤り及び本願考案の進歩性の判断の誤り)について

(1)  原告は、引用例考案2は、その目的(技術的課題)として、基体の表面の印刷文字を読取り不能に隠蔽することや、それを親展扱いにすることは全く含んでいないから、引用例2には、本願考案や引用例考案1の目的と共通する技術的課題は全く記載されていない旨主張する。

まず、引用例考案2が、審決認定のとおり、「面材料シート、該面材料シートの片側を被覆し該面材料シートに剥離可能に貼着された透明な重合物材料層、及び該重合物材料層に貼り合わされた基体に粘着するようにされた透明な接着剤層を含む積層構造物に於て、重合物材料層と接着剤層の分離或いは接着剤層と基体の分離に要する力より小なる力で面材料シートが重合物材料層から剥離する手段を該面材料シートが含み、そのため面材料シートを積層構造物から取除くと重合物層が接着剤層により基体に付着して非粘着化接着剤表面が得られる自己非粘着化積層構造物」に係る考案(審決書4頁12行~5頁3行)であることは、当事者間に争いがない。

この引用例考案2の「面材料シート」、「透明な重合物材料層」及び「透明な接着剤層」が、本願考案の「表葉紙」、「透明フイルム」及び「透明粘着剤」に対応することは明らかであり、引用例2(甲第5号証)の記載からすると、引用例考案2の「基体」には特段の限定がなく、「葉書」を用いることが可能であると認められるから、引用例考案2において基体として葉書を用いた場合、引用例考案2が、本願考案の要旨のうち、「透明フイルムと、該透明フイルムの上面に剥離可能に貼着し・・・(た)表葉紙と、前記透明フイルムの下面に塗布する葉書表面への接着用の透明粘着剤とからなり、前記透明フイルムに対する前記表葉紙の剥離強度は、葉書に対する前記透明フイルムの剥離強度より小さく、前記表葉紙、透明フイルムは、前記透明粘着剤を介して葉書表面に貼着すること」の構成を有するものと認められる。

そして、引用例考案2の面材料シートは、「例えば面材料を業務カード、会員カード又はクレジツトカード用に予め印刷しこれまた予め印刷した基体に貼付けて顧客に送ることができ、顧客はカードを積層物の残りの部分から剥ぎ取ることができる」(甲第5号証3頁右上欄2~6行)ものであり、また、「基体も積層構成物で被覆される部分を含めて予じめ印刷可能であり、その部分は透明な重合物及び接着剤を使用する限り面材料を取除くと見えるようになり読み取り可能である」(同号証4頁右下欄5~9行)のであるから、基体は予め印刷可能であり、一体をなす積層構成物は基体に接着可能なものであって、基体に積層構成物を貼りつけて商客に送ることができ、かつ、面材料を基体から取り除いても基体に付着した透明な重合物層は残存し、面材料で被覆された部分の印刷は面材料を取り除くことによって透明な重合物層を通して見えるようになり、それまでは隠蔽状態にあることが認められる。

そうすると、引用例2には「隠蔽」や「親展扱い」を目的とすることを明示した直接の記載は認められないとしても、引用例考案2が、この目的を達成できる十分な機能を有することは前記記載から明らかであるというべきであるから、引用例2には前記目的が示唆されているということができる。したがって、原告の上記主張は理由がない。

また、原告は、引用例考案2の使用形態は、本願考案のそれと全く反対であるとも主張している。

しかし、引用例2の記載から引用例考案2の明示された目的が基体から剥ぎ取った後の面材料の使用にあるということができたとしても、それが基体の印刷を隠蔽する機能を持ちうることは前示のとおりであるから、この点についての原告の主張も採用することができない。

さらに、引用例考案2が積層構成物に関する考案であって、それを基体に貼着して送付でき、かつ、面材料を剥がした後に基体に透明な重合物層を付着残存させておく点、つまり、前記目的に加え、その構成、機能の点でも引用例考案1と共通又は類似する部分があるから、葉書と積層構成物との関連も含めて、引用例考案1と引用例考案2とは技術的に極めて関連が深いということができる。

したがって、引用例考案1に引用例考案2を組み込むことに格別の困難があったとは認められないとした審決の判断に誤りはない。

(2)  前示当事者間に争いのない本願考案の要旨によれば、透明フィルムと表葉紙との関係については、「透明フィルムと、該透明フィルムの上面に剥離可能に貼着し、葉書の文面文字が読取り不能な表葉紙」と規定されているのみで、表葉紙と透明フィルムの大きさの関係については何ら限定は認められないのであるから、本願考案を表葉紙と透明フィルムが同じ大きさのものに限定して解することはできないというべきであるが、仮に、限定して解したところで、透明フィルムとその上に剥離自在に貼着されたシートの大きさを同一にしたものは、引用例2、前掲特公昭55-15035号公報(乙第4号証)及び実公昭57-60036号公報(乙第5号証)に記載されているように、それ自身は周知のものであり、しかもその大きさ自体については限定があるわけではないから、原告の主張は失当である。

(3)  以上のとおりであるから、本願考案は、引用例考案1と引用例考案2から、当業者がきわめて容易に想到することができたものといわなければならず、原告主張の本願考案の効果は、引用例考案1と引用例考案2を組み合わせた場合に当然に予測される効果であって、格別のものということができないことは、上記説示に照らし明らかである。

したがって、審決の進歩性についての判断に誤りはなく、取消事由4も理由がない。

5  以上のとおり、原告主張の審決取消事由はいずれも理由がなく、その他審決にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。

よって、原告の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 牧野利秋 裁判官 芝田俊文 裁判官 清水節)

平成2年審判第22649号

審決

石川県金沢市武蔵町3番5号

請求人 パテントマニジン 株式会社

東京都千代田区麹町5丁目7番地 秀和紀尾井町TBRビル 酒井・兼坂内外特許事務所

代理人弁理士 酒井一

石川県金沢市兼六元町3番24号

代理人弁理士 松田忠秋

昭和60年実用新案登録願第180888号「葉書の文面隠蔽用複層化アタッチメント」拒絶査定に対する審判事件(平成4年7月2日出願公告、実公平4-27664)について、次のとおり審決する.

結論

本件審判の請求は、成り立たない.

理由

1、 本願は、昭和60年11月25日(実用新案法第7条の2第1項の規定に基づく優先権主張、昭和60年1月17日)の出願であって、その考案の要旨は、出願公告後の平成5年3月24日付けの手続補正書によって補正された明細書および図面の記載からみて、その実用新案登録請求の範囲第1項に記載された次のとおりのものと認める。

「透明フイルムと、該透明フイルムの上面に剥離可能に貼着し、葉書の文面文字が読取り不能な不透明な表葉紙と、前記透明フイルムの下面に塗布する葉書表面への接着用の透明粘着剤とからなり、前記透明フイルムに対する前記表葉紙の剥離強度は、葉書に対する前記透明フイルムの剥離強度より小さく、前記表葉紙、透明フイルムは、前記透明粘着剤を介して葉書表面に貼着することにより葉書の文面文字を隠蔽することができ、名宛人において前記表葉紙を剥離することにより、前記透明フイルムを通して葉書の文面文字を読取り可能な大きさにすることを特徴とする葉書の文面隠蔽用複層化アタッチメント。」

2、 これに対して、当審における実用新案登録異議申立人宮井嘉則が提出した甲第1号証である特開昭50-33019号公報(以下、引用例1という)及び甲第2号証である特開昭56-127446号公報(以下、引用例2という)にはそれぞれ次のごとき考案が記載されている。

引用例1には、「第1図は本発明のもっとも好ましい実施態様を示したものである。・・・容易に葉書で親展扱いにすることが可能となる。」(第2頁右上欄第9行~同頁左下欄第10行)や、「親展内容部4にあらかじめ・・・感圧接着透明テープを貼付しておれば、めくる時、文字が取られるということはない。」(第2頁右下欄第13~15行)及び第1図の記載があり、これらの記載から、引用例1には、「葉書の親展扱いの必要な文面上に貼付される感圧接着透明テープと、それとは別体で、該感圧接着透明テープの上に重ねて貼着される剥離可能な郵便切手代用のスタック紙とからなる葉書の文面隠蔽用貼着体」に係る考案(以下、この考案を引用例1記載の考案という)が記載されている。

また、引用例2の主に、特許請求の範囲の記載や「本発明の利点は、面材料の片側または両側を積層前に予め印刷できること、或いは基体に積層後もその外面に印刷できることである。更に、基体も積層構成物で被覆される部分を含めて予め印刷可能であり、その部分は透明な重合物及び接着剤を使用する限り面材料を取除くと見えるようになり読みとり可能である。」(第4頁右下欄第3~9行)並びに各図面の記載から、引用例2には「面材料シート、該面材料シートの片側を被覆し該面材料シートに剥離可能に貼着された透明な重合物材料層、及び該重合物材料層に貼り合わされた基体に粘着するようにされた透明な接着剤層を含む積層構造物に於て、重合物材料層と接着剤層の分離或いは接着剤層と基体の分離に要する力より小なる力で面材料シートが重合物材料層から剥離する手段を該面材料シートが含み、そのため面材料シートを積層構造物から取除くと重合物層が接着剤層により基体に付着して非粘着化接着剤表面が得られる自己非粘着化積層構造物」に係る考案(以下、この考案を引用例2記載の考案という)が記載されている。

3、 ここで、本願考案と引用例1記載の考案とを比べてみる。

両考案の目的についてみると、本願考案が「葉書の記載内容を宛先に至るまで隠蔽すること」を主たる目的とし、「葉書そのものには何らの加工を施すことも必要とせず、葉書の表面に単に押し当てるだけでそれが複層化され、私信を含むあらゆる用途に好適に適用でき、また、表葉紙の剥離により、葉書の表面にラミネート加工に劣らぬ美粧性を有する透明面が表出するようにした葉書の文面隠蔽用複層化アタッチメントを提供すること」をも目的にしているのに対し、引用例1記載の考案は、「葉書で親展扱いを可能にすること」を目的とするものである。

上記両考案の目的は、表現の違いはあるものの、葉書の記載内容を宛先に至るまで隠蔽することを主たる目的とする点で共通しており、その余の本願考案の目的である「葉書そのものには何らの加工を施すことも必要とせず、葉書の表面に単に押し当てるだけでそれが複層化され」と言う一体化による簡便性については、ラベルやシートやアタッチメント等と称される貼着シートに共通した目的であり、「私信を含むあらゆる用途に好適に適用できるようにする」と言う汎用性については、引用例1記載の考案の目的として記載はないものの潜在的に有するものと言える。また、「表葉紙の剥離により、葉書の表面にラミネート加工に劣らぬ美粧性を有する透明面が表出するようにする」と言う美粧性についても、この種の商品において通常考慮される事項であるから、これら本願考案のその余の目的は、いずれも、引用例1記載の考案の目的として記載はないものの潜在的に有するものまたは必要のより考慮されるものを目的に加えたものにすぎない。

したがって、本願考案の目的は、主たる点で引用例1記載の考案の目的と共通しており、格別新たな目的が存在するとは認められない。

次に、両考案の構成についてみると、引用例1記載の考案における「感圧接着透明テープ」は通常テープ状の透明合成樹脂フイルムの一面に感圧接着剤を塗布したものを意味し、感圧接着剤は粘着剤と同意語として用いられる(異議申立人須藤優子の異議申立に対する答弁書における請求人自らの答弁及びその際提出された乙第1~3号証によって請求人も認めている)から、本願考案の「透明フイルム」と「透明粘着剤」とに対応し、以下同様に、「スタック紙」は不透明な紙であることが普通であるから、「不透明な表葉紙」に、及び「感圧接着剤」は、「剥離可能に貼着し」にそれぞれ相当し、引用例1には、「本発明の葉書1を受取った葉書に示された文字3の宛名人は送料台紙のスタック紙5をめくればよい」との記載(引用例1第2頁左下欄第6ないし8行)、さらには「親展内容部4にあらかじめシリコン処理もしくは感圧接着透明テープを貼付しておれば、めくる時、文字が取られるということはない。」との記載(引用例1第2頁右下欄第13~15行)があるから、引用例1記載の考案における「感圧接着透明フイルム」における感圧接着剤は透明であるものも含まれること、スタック紙は透明テープの上面に剥離可能に貼着されること及び透明テープに対するスタック紙の剥離強度は、葉書に対する透明テープの剥離強度より小さいことは明かである。さらに、引用例1記載の「スタック紙」及び「透明テープ」は、葉書表面に貼着することにより、葉書の文面文字を隠蔽することができ、名宛人においてスタック紙を剥離することにより前記テープを通して葉書の文面文字を読みとり可能な大きさを有するものであるから、両者は、「葉書の文面文字を隠蔽する部分に接着するための透明粘着剤が塗布されている透明フイルムと、該透明フイルムの上面に剥離可能に貼着し、葉書の文面文字が読取り不能な表葉紙とからなり、前記透明フイルムに対する前記表葉紙の剥離強度は、葉書に対する前記透明フイルムの剥離強度より小さく、前記表葉紙、透明フイルムは、前記透明粘着剤を介して葉書表面に貼着することにより葉書の文面文字を隠蔽することができ、名宛人において前記表葉紙を剥離することにより、前記透明フイルムを通して葉書の文面文字を読取り可能な大きさを有する葉書の文面文字を隠蔽するための貼着体」である点で一致し、次の点で相違しているものと認める。

相違点、 本願考案では「表葉紙と葉書表面への接着用の透明粘着剤を下面に有する透明フイルムが剥離可能に貼着され一体となっている複層化アタッチメント」であるのに対し、引用例1記載の考案では、剥離可能な接着剤を有するスタック紙(表葉紙に相当)と葉書表面への接着用の透明粘着剤を下面に有する透明テープ(透明フイルムに相当)が一体となっておらずそれぞれ別体であり、葉書表面への接着用の透明粘着剤を下面に有する透明テープ(透明フイルムに相当)だけが先に葉書に貼付され、後で、剥離可能な接着剤を有するスタック紙(表葉紙に相当)がその上に重ねて貼着されるものであり、積層化アタッチメントではない点。

4、 ここで、上記相違点について検討してみる。

葉書に貼るものが、本願考案では、すべての層が一体化されたアタッチメントであるのに対し、引用例1記載の考案では、それらが一体化されているものではないが、前記引用例2には、前掲のごとき積層構成物についての考案が記載されており、該積層構成物における、「面材料(10)」、「剥離する手段(12)」、「透明な重合物材料層(14」)、及び「透明な接着剤層(16)」が、本願考案の「表葉紙」、「剥離可能に貼着」、「透明フイルム」、及び「透明粘着剤」にそれぞれ対応し、これらの各層は一体化された積層構成物として基体(20)に貼付されるものであり、面材料は紙を含む種々の材料からなり、これら各層は一体化されたシール状のものであるから、引用例1記載の考案における別体になっている貼着体を引用例2のように一体化されたシール状のもの即ち、本願考案でいうところのアタッチメントにすることは必要に応じて適宜なし得るものというべきである。

そして、引用例2記載の考案における保護剥離地を取り去った台紙に貼付する直前の積層構成物は、葉書の文面文字記載面に貼付するとの記載はないものの「あらかじめ印刷した基体に張り付けて顧客におくることができ、・・・このときの基体表面は非粘着性なので、郵送その他の手段で送り主に返送可能である」(引用例2第3頁右上欄第4~8行)との記載から、引用例2記載の考案は、引用例1記載の考案と技術的に関連が深く、引用例1考案に引用例2考案を組み込むことに格別の困難があったとは認めらず、組み込んだための効果も予測される範囲内のものであるから、この点に技術上格別の困難があるとは認められない。

5、 したがって、本願考案は、本願出願の優先権主張の基になった先の実用新案登録出願前に頒布された刊行物である引用例1及び引用例2に記載された考案に基づいて当業者が極めて容易に考案をすることができたものと認められるので、実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。

平成5年10月13日

審判長 特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

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